「生産技術」ってあまり聞かない職業ですが、いったい何をする仕事なのでしょうか?
生産技術に興味がある人、これから生産技術になる人には気になる内容ですね。
今回は大手メーカーで10年以上生産技術として働く私がリアルな仕事内容について紹介します。
生産技術は会社の中でどんな役割を果たすのか?
生産技術って普通に生活していると聞き慣れない職種ですよね。
モノづくりのメーカー企業にとっては必須のポジションですが、世の中にはあまり浸透していません。
そんな表舞台には出ることはない生産技術ですが、会社の中での役割は
「効率よく生産できるようにする支援係」
といったところです。
もう少し仕事内容を掘り下げると、新製品の生産準備・量産ラインの改善が主な仕事内容です。
製品を量産する工場の面倒をみる役割があります。
生産技術の主な仕事とは・・・
- 新製品を立ち上げる生産準備
- 今流れている量産ラインの改善
特に新製品の生産準備をする時には前工程の設計と後工程の現場を繋ぐ役割があります。
例えば会社が新しい製品を立ち上げるとした場合、製品のコンセプトから量産化にこぎつけるまでの流れはざっくり以下の通りです。
新製品ができるまでの流れ
- 企画部署がコンセプトを考える。
- デザイナーが見た目(外側)をデザインする。
- 設計者が機能面を考え2D・3D上のモデルを作成する。
- 図面・データ上のモデルを生産技術が形にする。
- 品質保証・品質管理部門が品質をチェックする。
- 製造現場の人間が生産する。
- 営業が販売する。
上記の流れで④が生産技術の役割になります。
設計が作ったパソコン上のモデルを実際に形にして、大量生産できる準備を整えて現場にバトンタッチするのが新製品を立ち上げる生産技術の仕事になります。
こういった流れから生産技術のお客様(後工程)は製造現場と呼ばれることもあります。
会社によっては順序も役割も違い、本当はもっと前後の工程に関わりながら仕事をすることが多いので、ここまできれいに仕事が分かれていることはありませんが、だいたいはどの会社も生産技術は似たようなポジションに位置しています。
また、生産ラインの改善も生産技術の仕事の一つです。
製造現場は作業者への作業トレーニングや不良への対処など、その場でできることは対処しますが、そもそもの製造工程が原因となる不良などには手出しできません。
設備や治具・材料・手段など決められたルールを確実に実行して作業するのが現場の役割なので、生産方法の根本に関わることは現場でできる改善活動の範囲外ですしそもそも手を入れてはいけない範囲です。
そもそも量産中に発生している技術的な問題は量産までに見抜けなかった、対処できなかった生産技術の責任なので、量産に入っても生産技術が継続して改善をするのが当たり前になります。
そのため、設備動作や生産条件などの技術的要素が含まれる根本的な不具合の対策については生産技術が行う仕事の一つになります。
会社の規模が大きいと生産技術の課内では「新製品を立ち上げるチーム」「量産品を改善するチーム」の2つに分けられることがありますが、基本的には自分で立ち上げた製品は量産後の不具合も自分で対処することがほとんどです。
新製品立ち上げ時の生産技術の具体的な仕事内容とは?

新製品立上げの時に
「生産技術が生産準備をする」
と言いましたが、実際には何をするのでしょうか。
仕事内容はというと、社内外との調整や手配業務です。
新製品立上げの主な仕事内容
- 設計やメーカーなど、社内外との調整業務
- 設備・型・治具・荷姿などの必要なツールの仕様決め、手配
- 品質・コスト・生産性を考えた工程つくり
新製品を立ち上げる場合、パソコン上の2D図面・3Dモデルを現実の製品にするには何が必要ですか?
製品の元となる材料や加工する型・設備、組み立てる治具、検査する装置、効率良く流れる生産ライン、出荷する時の荷姿など、さまざまなツールが必要になります。
生産技術はこれら量産化に必要なツールを準備・手配するのが主な仕事です。
そしてこの準備・手配業務をする中で社内外との調整業務や効率よく生産する検討をする必要が出てきます。
では実際に何をするのというと、具体的には以下の仕事をすることになります。
生産技術の具体的な仕事内容
- 関係者との打ち合わせ(社内部署・メーカー)
- 設備・治具・型・荷姿などの仕様の検討、仕様書作成
- 取得見積もりの照査
- 製品や生産ツールの2D図面・3Dモデルの照査
- トライアル作業と前段取り
- トライアル結果の資料作成
- 不具合内容の対策検討
- 設備のティーチング
- 生産条件のパラメーター調整
- 品質確認(寸法測定・外観検査)及び測定結果の書類作成
- 現場への作業指導
- 量産品の不良対策
幅広い仕事内容ですが、個人的には原因不明で発生する不良や、手配・改善するのに大きなコストが発生する仕事をどのように対処しようかと頭を抱えることが多いです。
とはいえ、会社が大きく何をするにも書類手続きが必要になるので、業務時間的には何かを検討している時間よりも書類・資料の作成をしている時間の方が長いかもしれません。
それでも調整業務は面倒です。
例えば、生産技術の前工程である設計者は生産現場を良く知らないので、生産性の無いモデルでプロジェクトを進めようとします。
そこを設計者と調整し、設計要件を維持しながらも生産要件を盛り込んでもらう必要があります。
また、設備や治具のメーカーは製品の全体像を知らないので、私たちの意図をあまり理解できません。
そのためメーカーとは何度も打ち合わせをし、製品機能を損ねない設備や治具を作ってもらう必要があります。
このような関係部署との調整業務が生産技術にとって頭を悩ませる大きな要素になっています。
生産技術の調整業務
- 製品形状に生産要件を盛り込んでもらう(設計・受注先)
- 自分の工場に合った理想的な設備を製作してもらう(メーカー)
- 過剰品質になる品質基準を見直してもらう(品質保証)
- トライアル作業の段取りをしてもらう(製造現場)
- 新規設備のメンテナンス作業を定常業務にしてもらう(保全)
- 生産計画にトライ時間を確保してもらう(生産計画)
- 品質の良いモノを納入してもらうようサポートする(仕入先)
- トライサンプルが図面要求を満たすものか試験してもらう(実験)
書き出すとキリが無いですが、ざっと並べても関わる部署は多いです。
お互いが仕事内容を熟知していればスムーズに仕事ができるのですが、守備範囲外の業務を理解している人間はかなり少ないです。逆にいえば相手の仕事内容を理解したうえで調整業務ができると自部署でも他部署でも重宝されます。
経験上、勤める企業が大きければ大きいほど部署は細分化されるので、より多くの人間と調整しながら仕事を進める傾向があります。
逆に言えば勤める会社の規模が小さいほど、自分で何でもやらなければいけない場合が多いです。
生産技術の仕事で基本となる考え方
以上が生産技術の仕事内容になるのですが、仕事をする上で大前提があります。
それは安全・品質・コスト・納期です。
生産技術の仕事の大前提
- 安全
- 品質
- コスト
- 納期
全てに優先される「安全」
何よりも優先されるのが「安全」です。
モノを作る工場には危険がたくさんあるので安全はどの会社でも必ず話が出ます。
数トン以上の力を発揮するプレス機や金属を簡単に切断する機械、数百度の高温設備などさまざまです。
作るモノが大きければ大きいほど工場内にある設備は危険であることがほとんどで、使い方を誤ると簡単に命を落としてしまいます。
実際にそういった設備を使うのは現場の作業者たちですが、自分の導入した設備で労働災害にあってほしくはありません。
人が傷つくのも問題ですが、会社としても社会的信用を失うことになるので絶対に避けなければいけない重要事項になります。昔から「緑十字」や「安全第一」という言葉があるように、生産現場では何よりも安全は優先されているのです。
ただ、安全を重視するあまり設備に何重ものインターロックを設けるような作業性が損なわれる機能や工程を追加するのは少し考えたいところです。
追加機能によって作業性が悪くなり生産性が大きく損なわれるのであれば会社経営が成り立ちません。機能を維持しつつ安全性を確保することが生産技術に求められる能力のひとつです。
バランスが大事な「品質・コスト・納期」
次に重要となるのが「②品質、③コスト、④納期」です。
QCDという言葉を聞いたことはありますか?
Quality, Cost, Deliveryの頭文字をとったもので、吉野家でいうところの「うまい、安い、早い」というやつです。
生産技術にとって大事なQCD
- Q:Quality(品質)
- C:Cost(コスト)
- D:Delivery(納期)
このQCDをバランスよく満足させた製品を量産化させるのが生産技術の仕事になります。
この3つの要素は互いに密接に関係しており、
- 時間(納期)やお金(コスト)をかければ品質の良いモノはつくれるし
- 製造単価(コスト)を下げるには品質を下げてサイクル(納期)を上げて生産すれば良い
- 早く(納期)ものを生産すると品質が下がる一方で製造単価(コスト)は下がる
など、一方を向上させると一方が損なわれる関係性があります。
QCD全てを完璧に満足させながら仕事をするのが理想ですが、現実はうまくいかないことが多いのでバランスを考えて仕事をすることになります。
仕事をしていると視野が狭くなり一つの方法にこだわってしまうこともありますが、時には少し落ち着いて、「会社の利益のためにどのような選択をするべきか」というのを考えて仕事をすることが重要です。
生産技術は利益を生み出す部門ではないので、上の人間にとって個人を評価するのが難しいです。そんな時に原価低減(コストダウン)を達成した数値的な実績があると、良い評価を貰えることが多くなります。
生産技術に適した性格の人とは?

生産技術は仕事の範囲が広く、ルーチンワークではありません。
社内外のさまざまな調整業務が大部分を占めるので生産技術は外交的でメンタルが強い人が向いています。
生産技術に向いている性格・・・外交的、メンタルが強い
設備メーカー・資材メーカー・型メーカー・治具メーカー・商社・設計・製造・営業・購買など、かなり多くの人間とコンタクトを取りながら仕事をすることになりますし、中小メーカーが相手になると年の差が一回り二回りも離れた肩書のある人間とやり取りをすることもざらです。
この点は内向的な性格でも仕事と割り切れば難なくこなすことができます。
一方でメンタル要素が必要になるやっかいな仕事は調整業務です。
「調整」という事は互いの意見が違っているので、どんな形であれ双方が同意するような結論を出すこと。・・・というふうに思うかもしれませんが、実際は違います。
板挟みに合いながら頭を悩ませることがほとんどです。
良くあるパターンと言えば、設計からの無理難題(製造側にとって面倒なこと)を依頼された場合ですね。
そのまま設計に拒否するか、現場にそのまま依頼するか、別の折衷案を考えるかになるのですが、大抵この場合は製品にとって必要な要件なので現場に依頼せざるを得ません。
この場合、もちろん現場からは反感を買います。
普段から良好な関係を構築できていればグチグチ言いながらも対応してくれるのですが、生産技術になりたての人にとっては一つの壁です。
人見知りする人や人と話すのが苦手な人にとってはハードルになります。
特に現場に何かを依頼する時、相手は役職のある偉い人間と話をすることがほとんどです。一般の作業者はマニュアル通りに行動するライン作業者ですからね。
現場で生産技術と関わりを持つ肩書のある人間というのは高卒で現場に入り、昔の厳しい労働環境の中から成りあがってきている人たちなので、気難しいというかクセの強いというかそんな人が多いように感じます。
そんな人たちに無理な依頼をしなければいけないこともあり、時には厳しいことを言われることも多いです。
実際に私の周りではいろんなプレッシャーから3人ほど鬱になっています。
そのため、立場や所属に関係なく誰とでもやり取りのできる外交的な人間が生産技術に向いていると言えます。
生産技術は休みが少ない

生産技術のことを少しでも知っている人にとっては有名な話ですね。
実際、生産技術は休みが少ないです。
量産設備を使って実施するトライアル作業や新規設備の導入、既存設備の改造・修理、工場のレイアウト変更など、量産設備が動いているとできない仕事がたくさんあります。
そのため、必然的に深夜や休日に作業する機会があるので休みも少なくなります。
10年以上生産技術として働いてきましたが、少なくても月に1回、多い時は毎週休日出勤をしていました。
中でも辛いのは長期連休が満足に取れないことです。
年末年始、5月連休、8月連休などの長期連休は確実と言っていいほど休日出勤をしています。
大がかりな設備改造や工場のレイアウト変更などは土日で終わらせることができないので、どうしてもターゲットは長期連休になります。
休日出勤が入ってくるのが分かっていると旅行の計画も立てにくいうえに、土壇場で日程変更というのも結構あり得る話なので、予定を立てた休日というのが過ごしにくいのが現状です。
会社の休日制度がきちんとしていれば休日出勤した分だけ平日に休みを取ることができますが、実際には平日は平日でやらなければいけない仕事があり、堂々と休むのは難しいのが現状です。
多忙な人になれば平日休んでいる間にも携帯に仕事関係の電話が掛かってきたりなどもします。
また、きちんとした会社であれば休日出勤が増えるほどその分手当てが出るので収入は増えるというメリットはありますが、お金を取るか休みを取るかは好みが分かれるところです。
いずれにせよ生産技術になると=休日出勤があるという事を覚悟しておく必要があります。
生産技術職にしか味わえない達成感がある

生産技術の良いところは達成感ですね。
2D図面やパソコン上の3Dモデルが形になった時、誰が一番最初に立ち会えるかというと生産技術です。
そしてやっとの思いで量産化にこぎつけると、やはり嬉しいものがあります。
設計や現場の人間も知らない生産上の苦労が山ほど詰まっており、製品一つ一つにそれぞれドラマがあります。
最初に立ち上げた製品や苦労が多かった製品ほど思い入れは大きいものです。
市場に流れて一般のユーザーが使っているのを見ると「あの製品は大変だったんだよな」とかよく思います。
何か新しいものを生み出したい。
そんな願望が強い人ほど生産技術に適していると感じます。
まとめ:生産技術は表に出ないけど重要なポジション
以上が生産技術の現状です。
今まで10年以上生産技術として働いていますが、泥臭い仕事も多く、時には厳しい立場にさらされることもありますが、製品が形になった時、市場に出て一般ユーザーが手にしているのを見た時は嬉しい気持ちになります。
昔と比べると労働環境は改善しつつあり、休日出勤の代休がきちんと取れたり、サービス残業が減ったりなど、労働環境が良くなっているのも肌で感じています。
生産技術に興味がある人、これから生産技術に配属される人の参考になれば幸いです。